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Ref.2497は、パテック初の量産型センターセコンド・パーペチュアルカレンダーである。

率直に言って、このモデルのデザインは奇抜であり、あえて言わせてもらうなら、パテックのパーペチュアルカレンダーのなかでも私のお気に入りというわけではない。今になってみれば、この記事の執筆にこれほど多くの時間を費やしたのはおかしな話だが、すべてはオンラインで簡単に答えが見つからなかったひとつのシンプルな疑問から始まった。しかし私でさえ、このリファレンスには形容し難い魅力があると認めざるを得ない。パテックの “ファースト”を冠するモデルには、少なくともじっくり見る価値があるのだ。

(シンプルに徹したダイヤルが持つ)ドレッシーさと(センターセコンドとエナメルミニッツトラックの)スポーティさの中間に位置付けられるこのケースは、クロノグラフプッシャーを廃したRef.2499の“実質コピペ”(あるオークションハウスが実際そう表現している)である。しかし、センターセコンドを持つパーペチュアルカレンダーは、パテックがRef.2497の製造中止以降30年間放擲(ほうてき)してきたデザインでもあり、ある意味、それが魅力に拍車をかけている。しかしそれ以上に重要なのは、数々の魅力的でユニークなバリエーションであり、逸話的にはこの時代のほかのどの複雑機構を持つパテックよりもはるかに玉数が多いとされているということだ。これらはマーケットにおいて注目すべき成果を上げただけでなく、どのコレクションにとっても素晴らしい要となることだろう。

パテックフィリップスーパーコピー代引きRef.2497とよく似た防水ケースのRef.2438/1と合わせ、1951年から1963年までの12年間に2種類の通常ダイヤルバリエーションと2社のケースメーカーによる個体が、わずか179本しか製造されなかった(ただし、私が見たパテックのアーカイブには、1959年以降に製造された時計は1本を除いて記載されていない)。内訳はRef.2497が114本、Ref.2438/1が65本であった。この総数は、当時のほかの非常に複雑なモデルとは異なり、888,000から始まる特別な専用ムーブメント番号が採番されていたため、容易に割り出すことができる。Ref.2497はまた、より長寿のアイコニックピースであるRef.2499の初期モデルの生産時期に符号する。しかし1964年までには、Ref.2497とRef.2438/1の両方がパテックのカタログから姿を消した。

Patek 2497 yellow gold
ドイツ語表記カレンダーを搭載した唯一のパテック フィリップ Ref.2497J。

 では、ヴィンテージパテックにおいて“完璧主義者”になることがいかに難しいかを示す好例がRef.2497と言える理由は何だろうか。114本製造されたうちのほとんどがイエローゴールド(YG)製であった。希にピンクゴールド(PG)製(約20本)、ホワイトゴールド(WG)製(3本)、プラチナ製(2本)が存在するが、いずれも37mm前後(コンマmmの誤差は割愛)、厚さは12~13mm程度である。Ref.2497はパテックの“プレミアム”モデルの最終型であり、ホワイトメタルはあまり採用されなかった。Ref.3448の登場により、ホワイトメタルはより一般的に採用されることとなった。

 2024年までに56本が市場に流通した。現代の価格は外れ値の約15万ドル(日本円で約2300万円)から300万ドル(日本円で約4億6175万円)超まで幅があり、現在は平均35万ドル(日本円で約5390万円)前後で推移している。2本のホワイトメタルの個体は数百万ドルの値がつき、特にコレクターのあいだで人気が高い。少なくともさらに7本の希少かつユニークピースで、重要な個体を含めた“全バリエーション”を手に入れようと思えば、数千万ドルの出費が必要だろう。しかしそれでも素晴らしいコレクションを築くことは可能だ。

 本稿は、2024年初めにモナコで4種類のケース素材のうち3つを同時に見るという幸運な機会に恵まれたことに端を発している。この3本の時計を所有していない限り(実際、所有している人物がいる。Instagramで@theswisscaveauと名乗る友人のデイブその人である)、博物館以外でRef.2497のケース素材違い3本が一堂に会すことはまずないだろう。

Patek 2497 first series in yellow, white, and rose gold
Instagramで@theswisscaveauと名乗るデイブのコレクション。

 Ref.2497の生産様式としては、ダイヤルデザインとケースメーカー別のふたつに大別でき、それぞれに第1世代と第2世代が存在する。オークションハウスのカタログやディーラーのリストでは、ほとんどの場合、ダイヤルデザインによってふたつの世代に分けられる。むべなるかな、Ref.2499がこうした扱いとなっているからだ。それが最も明白な違いでもある。しかしRef.2497は2499ではないし、この扱いはケースの微妙な違いが生み出す希少性を無視することになってしまう。さらに混乱させられることに、オークションハウスが、ケースの製造元によって世代が線引きされると言うこともある。これらの背景と、私が見た3本の時計によって、いくつかの疑問に対するよりよい答えを私は探ることにした。ダイヤルの世代の変わり目はいつか? 各世代は何本製造されたのか? これらの疑問、そしてさらに生まれた疑問は、答えがないように思えた。

 私のリサーチ(と一般に販売されているすべての個体を脇目もふらず分類した)では、私はRef.2497には3世代の(あるいは4世代の)シリーズがあると主張したい。当初、本リファレンスに対するこの見方は古いのではないかと思った。1980年代と90年代のアンティコルムのカタログを見ると、(2009年に至っても)3世代あると書かれているが、1本のユニークな過渡期の個体を第2世代と勘違いしているものだった。本記事で私はまったく異なるアプローチを主張し、学説を書き換えている。もしかしたら、それが定説となるかもしれないが、私は空想上の第3世代のRef.2497について一生語り続けることになるかもしれない。

 学んだことをすべてまとめようとしたら、結局長編になってしまった。そのため、本記事は2部構成の前編として公開する。前編では、ダイヤル、ケース、Ref.2438/1との違いなど、本リファレンスの通常生産モデルを分類し、理解するための基本的なディテールを取り上げる。後編では、レアでユニークな個体を取り上げ、価格の推移を追い、このリファレンスのヘリテージ(遺産)について理解したい。今のうちに警告しておくが、これはとてもきわめて濃い内容である。だが、もし将来研究したい読者がいれば、本記事が研究の手助けになることを願っている。

Ref.2497の2種類の(メイン)ダイヤル
Ref.2497に関する研究は、ある観点に限っては、ほぼ正しかったと言える。つまり通常生産のダイヤルには、大別して2種類の世代が存在するということだ。これらのダイヤルは主にシルバーオパライン色で、針とインデックスはスターン・フレール社製のケース素材と合致している。シャンパンカラーダイヤルや、後編で取り上げるいくつかの傑出した個体など例外もあるものの、一般的に“スタンダード”なRef.2497は、ホワイトまたはオフホワイトのダイヤルを備えている。また、販売店のサインが入ったRef.2497は、わずか6本しか製造されなかったことが知られている(オークションに出品されたのはガンビナーの1本のみ)。

 Ref.2497の初期の作品は、この時計が1941年から1952年まで製造されたパテック初の量産パーペチュアルカレンダー、Ref.1526から多くを継承していることは一目瞭然だ。Ref.1526は(ほぼ例外なく)、偶数(アワー)マーカーに小さなアラビア数字、奇数マーカーに小さなドットを配したことで、多くの余白を確保していた。手巻きムーブメントCal.12'''120Qを搭載したRef.1526は、6時位置のムーンフェイズ周辺に日付表示、同じ位置にスモールセコンドを配している。このたったひとつのインダイヤルには、秒単位にハッシュが刻まれたセコンドトラックとその外周円、日付トラックとその外周円が描かれている。それぞれのインダイヤルの針は、各々のトラックを指している。極めつきに、このリファレンスでは非常に繊細な“フィーユ(feuille)”、つまりリーフ針が採用されている。独創的でコンパクトだが、そのレイアウトはダイヤル底部がヘビーな印象だ。

Patek 1526
パテック Ref.1526は2016年のコラムBring A Loupeで取り上げた。

 ダイヤル上の空きスペース(アラビア/ドットインデックス)は、Ref.2497の第1世代のダイヤルでは一貫している。曜日と月は12時位置の切り抜き窓に残されている。しかし手巻きムーブメント、Cal.27SC Qを搭載してセンターセコンドに移行したことで、Ref.2497ではダイヤルレイアウトにいくつかの変更が加えられた。

2497 Movement
Cal. 27SC Q。 Photo: courtesy Christie's

Patek 2497 first series in yellow, white, and rose gold
友人デイブ所有の時計。

 まず、センターセコンド化によって、インダイヤルは日付のみを表示するように簡素化された。Ref.2499と同様、ダイヤルはインダイヤルの周囲に切り込みが設けられ、日付トラックの外周はない。秒針がダイヤルの縁を指しているため、トラックもそこに移動し、5分の1秒刻みのハッシュマークと5分間隔(日付と重なる30分を除く)ごとにエナメル加工された数字が配置された。この第1世代のRef.2497のダイヤルには、リーフ針も使用されている。第1世代のダイヤルは、シリアル番号888,001〜888,098のムーブメント搭載機に使用され、それらの製造年は1951年から1954年と合致する。

Patek 2497 first series in yellow
Patek 2497 first series in rose
 上のRef.2497Rに見られるもうひとつの興味深い特徴は、先行するRef.1518に(まれに)見られるプレキシガラスの“サイクロプスレンズ”を持つ個体が時折見られることだ。2017年にフィリップスで販売されたWGの2497G(220万スイスフラン、当時の相場で約2億5000万円)にもサイクロプスが付いていた。しかし、2021年にフィリップスで最後に販売された個体には(280万スイスフラン以上、当時の相場で約3億3890万円)、このサイクロプスはなかった。興味深いことに、本稿で一緒に紹介されているYGとRGの個体は、これまでに製造された唯一のドイツ語表記カレンダーを持つRef.2497sでもある。